希望大国ブラジル(その22) 「神の街」を訪ねて 悪名高きスラム、様変わり

希望大国ブラジル(その22) 「神の街」を訪ねて 悪名高きスラム、様変わり

「神の街」を訪ねて 悪名高きスラム、様変わり

 家に家を継ぎ足した不法建築が丘を埋め尽くし、その上にそびえる「コルコバードのキリスト像」が祝福を贈るかのように街を見下ろす。ブラジル・リオデジャネイロの「ファベーラ」と呼ばれるスラム街。この街で育ったジルソン・シルバさん(32)は「あのままだったら確実に死んでいた」と胸へ手を当てた。

 13歳で強盗グループへ入った。仲間の多くは死に、自身も2回逮捕された。投獄中に恋人がわが子を産み、人生が変わった。昼間働き夜学の高校、専門学校を卒業した。現在はスラムの観光ガイドをしている。

 「この仕事が成り立つほど治安は改善した。街の素顔を世界に知ってほしい」

 ブラジルのスラムは1940年代から、経済的に貧しい東北部などの人々が都市へ流入し形作った。やがて麻薬組織に支配され無法地帯と化した。リオ州政府によると2010年、州内のスラムは1020、人口1300万人。観光地コパカバーナ海岸のすぐ裏手にさえスラムが横たわる。

 だが、14年のW杯や16年のリオ五輪を控え、州軍警察が08年から始めた「UPP」と略称される治安回復計画が成果を上げた。政府による貧困層への現金給付政策でスラムにも中間所得層が現れた。銀行やスーパーも進出し、悪名高きスラムは様変わりしている。

殺人は減少傾向

 ブラジルが抱える課題に治安がある。スラムの問題はその一部にすぎない。国連薬物犯罪事務所の統計によると、人口10万人当たりの殺人発生件数は08年、21・9件と日本の0・45件の48倍。03年の33・1件から減少傾向にあるものの、米国の5・2件、ロシアの14・1件と比べても高い。

 路上強盗も多発し、サンパウロ市西部の地区では8月末までの1カ月余りで11人が「電撃誘拐」の被害に遭った。被害者を車ごと誘拐する手口で、危害は加えず数十分の間にカードで現金を引き出させたり買い物をさせたりする。ブラジルではありふれた犯罪だ。

 防弾車の生産も世界一といわれ、防弾車改造業31社が加盟する「ブラジル防弾車協会」によれば、10年の1年間に新たに防弾装備を施した車は7332台と前年から5%伸びた。大都市圏へ集中しておりトヨタカローラが最も多いという。

KOBANが手本

 スラムの少年たちの抗争を描いた02年の映画「シティ・オブ・ゴッド」の舞台「シダージ・デ・デウス」をリオ郊外に訪ねた。

 かつて麻薬倉庫があった街角の小さなグラウンドで警察官が子供たちへサッカーを教えていた。そばに2階建ての駐屯所。マジ・ロメウ隊長(35)は「サッカーや絵を教え、暴力や麻薬へ引きずり込まれないようにしたい」と話す。

 駐屯所は、日本の交番を手本にした。ブラジルは97年から交番制度の導入を進め、支援するJICA(国際協力機構)によると8州に421カ所。警察官が住む「CHUZAISHO(駐在所)」もある。

 ブラジル法務省国家保安局のエリソン・ピタ軍警大佐(48)=日本の警視正に相当=は「80年代半ばまでの軍政時代から軍警は市民と敵対してきた。こうした状況を変えようと地域と協力する『地域警察』の哲学が生まれ、英国やカナダ、チリなどの警察制度を調査し日本のKOBANへ行き着いた」と説明する。

 スラムの治安改善へ貢献したUPPもリオ州軍警による地域警察活動であり、駐屯所は17カ所へ増えた。

 リオ在住のジャーナリスト、高橋直子さん(37)は「UPPが成果を上げる一方、軍警が麻薬組織から賄賂を受け取る汚職も表面化してきた」と指摘する。

-産経ニュースから-

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