免れないムクインの洗礼

免れないムクインの洗礼

アマゾンはジャングルばかりではなく、ところどころには草原がある。中には芝草を敷き詰めたような見事な草原もあるが、草原の美にひかれてうっかり足を踏み入れると大変な目にあう。

しばらくは気がつかないが、そのうちに足の方がかゆくなる。おかしいなと調べても何もおらず、痒さだけがやたらとひどくなる。

シャワーを浴びようと、風呂に入ろうと、薬をつけようと、痒さは一向にとまらない。二日ぐらいすると足のかゆみは収まるが、こんどは陰部が猛烈にかゆくなる。

これがアマゾン名物ムクインである。

ムクインとはインジオ語で「粉のような虫」という意味だが、その名のとおり非常に微細なダニで、ちょっと見たぐらいでは分からない。よほど眼のよい人が気をつけてみるとどうにか赤い点を見つけることが出来るほどである。

これが、草から足に何百、何千と移り、徐々に足を這いあがり、やがて陰毛に辿りつくと毛根に深くもぐりこむ。

アマゾン奥地を歩いた人なら、必ず一度はムクインの洗礼を受けるが、この痒さは気が狂いそうでたまらない。

しかも、場所が場所だから人前でボリボリ掻くわけにもいかず、拷問を受けたようで、ひどい目にあう。毛をそろうと、薬を塗りつけようと、毛根に深くしっかりもぐり込んでいるから効き目はない。

この痒さは十日ぐらい続くが、幸いなことにムクインは、草を宿主にしないと繁殖出来ないから、人体で増えることはなく、十日もたつと寿命が尽きて死んでしまう。

頭髪につくことは珍しいが、草原の美に陶酔して寝転んだりしたらやられる。女性でムクインが頭髪について、余りのかゆさにたまりかね丸坊主にした人もいるが、これはムクインの性質を知らないからで、十日も我慢すれば自然になおる。それに髪を切って薬を塗ってもそう効き目はないので、あわてて丸坊主にすることはない。

このムクインは熱帯医学の研究者の間ではよく知られている。

私の知人がニューヨークからアマゾンに来てムクインの洗礼を受けて帰って行った。ニューヨークに帰った彼は、あまりの痒さに熱帯医学の専門家のところにかけ込んだ。本人としては必死である。

一通り診察した医者は笑いながら「アマゾンに行ったね」と指摘し、しかも彼がアマゾンで歩いた地方名を正確に言い当てたそうだ。

医者の説明によると、アマゾンには毛根に入り込んむダニは何種類もあって、それぞれ棲んでいる地域が違うので、ダニを調べれば、どこに地方のものか分かるのだとのこと。

しかし、現地ではそんなに詳細には分けず、毛につくダニはすべてムクインという。

インジオやカボクロはムクインには平気だが、これは免疫になっているからで、普通の人でも二度目からはさほどでもなくなる。

サソリ、ムカデ、クモも人間とは非友好的だ。サソリは余り大きくないが、汗臭いところを好み、しばしば脱ぎ捨てたシャツのポケットや靴の中にかくれているから、靴をはく時は注意が必要。

毒グモで有名なのはカランゲジェイラ(英名タランチュラ)で手のひらを広げたほどの大きさがあり、力も非常に強く、小鳥でさえも捕まえたら放さない。一名トリグモともいう。

イカの口に似たするどいクチバシを持っており、小鳥など簡単に裂いてしまう。

このタランチュラは、アマゾンのはやたらにいるクモで、木の根や大木のくぼみなどに巣喰っているが、時には人家の柱などにも巣をつくり、夜になるとゴソゴソ這いだしてくる。

よく映画がなどで、寝ている人間を襲おうと、黒い毛だらけの足を動かしソロソロ近寄ってくる場面が出るが、実はこのクモは毒グモとしては毒性の薄い方で、人間を襲うことは滅多になく、また噛まれても致命的ではない。

クモでも本当に怖いのはコケグモとか黒クモと呼ばれる種類である。

 

<サンパウロ新聞 アマゾン学のすすめ>から

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